

地球の歴史をみると、氷期と間氷期が約10万年の周期で起こっていたことがわかっています。この気候変動には、複数の原因が指摘されていますが、中でも北半球夏季の日射量変動が重要な因子であることがわかっています。また、今から過去2000年間に着目すると、比較的小規模な気候変動があったことがわかっており、これについても日射量変動が影響していたと考えられています。以下では、これら二つの時間スケールの自然の気候変動について説明します。
図1(a)は、過去80万年間の南極の気温変動を示しています。このデータは、南極氷床の過去につくられた氷(氷床コア)を分析し復元(推定)したものです(注2)。気温が顕著に高い間氷期の間隔は約10万年であり、長期スケールの氷期と間氷期の繰り返しが明瞭にみられます。この気候変動の原因は、地球の自転軸の傾きや地球が太陽の周りを回る軌道が周期を持って変動することによって生ずる2万〜10万年スケールの北半球夏季の日射量変動と密接に関係していることがわかっています(この周期変動をミランコビッチサイクルといいます)。詳細な変動機構の説明は割愛しますが、この日射量変動がきっかけとなり気温が変化し、気温変化→氷床や二酸化炭素濃度の変化→気温変化というように気温変化の増幅(注3)を繰り返しながら、気候が遷移したと考えられています。また、氷期から間氷期に遷移するときの気温上昇は、20世紀後半から起きている気温上昇と異なります。例えば、今から約2万1000年前の最終氷期から次の間氷期に遷移する約1万年間での4〜7℃の全球気温上昇に比べて、20世紀後半から起こっている気温上昇速度は約10倍も速いのです。以上のことからわかるように、ミランコビッチサイクルに起因する気候変動では、今も続く現代の温暖化の傾向を説明することができません。
[図1](a)過去80万年間における南極の気温の推定値の時系列。約10万年スケールでの気温の変動がみられ、氷期と間氷期が繰り返す気候変動が起こっていたことがわかる。 (Jouzel et al. [2007] のデータをもとに作成)
(b)過去1800年間の復元された北半球の気温偏差の時系列。1961〜1990年の平均気温の偏差として示す(複数の推定法を用いたため、値には幅があります)。 中世の温暖期(約900年から約1400年)や小氷期(約1400年から約1900年)と呼ばれるような気候変動があったことがわかる。また、約1970年頃(20世紀後半)から気温が短期間で急激に上昇した、最近の温暖化がみられる。(Mann et al. [2008] PNAS, 105, 36, 13252-13257)(Copyright [2008] National Academy Science, U.S.A.)
今から過去2000年間の気温の推移[図1(b)]をみると、「中世の温暖期」や「小氷期」とよばれる、北半球気温の変動幅が1℃未満の気候変動がありました(注4)。これらには数百年スケールの太陽活動の強弱による日射量変動が影響していたと考えられています。例えば、中世には太陽活動が比較的活発であったために温暖であったと推測されており、一方で15〜19世紀頃には太陽活動が低下したために小氷期がもたらされたと考えられています(注5)。しかし、20世紀後半には太陽活動の活発化はみられないことから、20世紀後半の温暖化を太陽活動の変化のみによって説明することはできません(注6)。
図1(b)をみると、20世紀半ば以降、短期間で急激な気温上昇が起こっていることがわかります。しかし、上述したように、ミランコビッチサイクルや数百年スケールの太陽活動の強弱に伴う日射量変動では、20世紀後半からの気温上昇を説明できません。では、20世紀後半から起こっている地球温暖化の主因はいったい何なのでしょうか?
これを調べるために、気候モデル研究者らは、20世紀の気候変化に寄与すると考えられるさまざまな因子(温室効果ガス濃度の増加だけでなく、人為起源の硫酸エアロゾル排出の変化、オゾン層の変化、火山噴火、太陽活動変化なども含まれる)を考慮した気候モデル実験(20世紀再現実験)を行いました。この実験では、これら因子をすべて考慮した計算に加え、いくつかの因子を考慮しないなど仮想条件での計算も行い、それらの結果を観測データと比較することにより、20世紀後半の気温変化に対する各因子の寄与度を検討しています。この研究の結果、温室効果ガス濃度の増加を考慮しなければ20世紀後半の温暖化を説明できないことが示されました。これを受けてIPCC第4次評価報告書では、20世紀後半の温暖化の主因は温室効果ガス濃度の人為的な増加である可能性が非常に高いと結論付けています。
太陽活動の変動の詳しいメカニズムはまだ明らかになっていないため、今後数十年から100年の間の太陽活動の変化による気候変動予測は困難です。しかし、太陽活動の変化が過去2000年間に起こった程度の強弱で繰り返されると仮定するなら、その影響による気温変動幅は小さいことから、今後100年で予測される人為的な温暖化を打ち消して寒冷化することは考えられません。
ミランコビッチサイクルで説明される、長期スケールの気候変動については、2万〜10万年スケールの日射量変動は理論的に計算でき、氷期が今後3万年以内に始まる確率は低いと予測されています。また、現在の高い大気中の温室効果ガス濃度により氷期の開始が遅れる可能性があるとも指摘されています。
現時点で、今後数10年〜100年の期間でわれわれが優先的に対応を考えるべきは、自然の気候変動ではなく、人為的な温暖化やその影響であるといえるでしょう。
(注1)ココが知りたい温暖化「氷床コアからわかること」を参照
(注2)ここでは南極の気温の推定値のみを示しましたが、各地の気候変化を示す指標(プロキシーデータ)から、図に示したような気候変動が地球規模で起こったことがわかっています。
(注3)ココが知りたい温暖化「氷床コアからわかること」を参照
(注4)これらはヨーロッパでは顕著だったが、全球的には顕著な現象でなかったかもしれないことが報告されています。
(注5)なお、別の寒冷化メカニズムとして、火山噴火の活発化も考えられます。
(注6)ココが知りたい温暖化「太陽の黒点数の変化が温暖化の原因?」を参照
地球温暖化の原因、機構、影響等を、図とテキストを用いて解説しています。
地球環境研究センターで研究している温暖化問題をパンフレットにしました。
[PDFファイル3.77MB]
地球環境研究センターニュースの連載をまとめました。[PDFファイル]