

まず、海面上昇が起こる仕組みについて整理したいと思います。地球温暖化に伴う海面上昇は主に、(i)陸上の氷河/氷床に貯蔵されていた氷が融解し、融け水や氷山が海に流れ込み海水の量を増やすことや、(ii)水温が高くなって海水の体積が膨張することによって起こります。図1は過去に観測された海面水位変化を示す図で、水位が130年間にわたり上昇を続けている様子がわかります。このうち最近10年間(1993〜2003)に注目すると、上昇幅のほぼ全てを(i)と(ii)の寄与で説明できることが確認されています。ただし、近年ニュースで北極海の氷の面積の縮小が報じられていますが、北極海に浮かんでいる海氷はいくら融けても海水面の上昇には結びつきません。これは、コップの水に浮かんだ氷のかけらが融けてもコップの水位に変化が起きないことと同じです(アルキメデスの原理を思い出してください)。問題となるのは陸上の氷河/氷床が融けた場合で、これには小さな山岳氷河から大陸や島全体を覆う氷床まで、様々な規模のものが含まれます。こうした陸上の氷から海に流れ込む融け水や氷山が温暖化によって増加し、海洋の質量が増加することにより海面は上昇します。
(i)の効果に(ii)の海水の膨張の寄与を合わせた海面上昇の予測は定期的に公表されています。その結果によると、21世紀の海面上昇に寄与する最大のものは海水体積膨張であり、グリーンランド氷床がそれに次ぐことが示されています(南極氷床が及ぼす影響については未だ不確定性が大きく、明確な結論は得られていません(注1))。最新の予測結果では2100年までの海面上昇は18cm〜59cmと見積もられています。海抜ゼロメートル地帯の存在する東京湾、伊勢湾、大阪湾の海岸堤防は2〜3m以上の高潮(台風や低気圧による一時的な海面上昇)を想定して整備を進めているため、上記の範囲内ならば通常は水没する可能性は低いと考えられます。

図1 全球平均海面水位の変化(1961-1990年平均を基準とする)。青色が潮位計、赤色が衛星による観測値。10年平均値を曲線、各年の値を丸印、そして不確実性の幅の推定値を影で示す。IPCC (2007), Summary for Policymakers に加筆。
より遠い将来の海面水位予測においては氷床の融解が重要性を増してきます。特にグリーンランド氷床は温暖化がこのまま進行した場合、早ければ2100年までに融解量が降雪量を上回り、氷床の縮小が始まると指摘されています。その後、氷床の縮小は数百年以上かけてゆっくり進行しますが、グリーンランド氷床が完全に消滅すると海面水位は7m上昇すると見込まれています。したがって、温室効果ガスの排出を今後大幅に削減しない限り、数百年以上後には現在の海岸堤防のままでは海抜ゼロメートル地帯が水没の危険にさらされることも十分考えられます。このことはアル・ゴア主演のドキュメンタリー映画「不都合な真実」でも指摘されている通りです。もう一つ、海面上昇で注意すべき点として慣性が大きいことが挙げられます。すなわち、気候を安定化させた後も海面水位は過去の温暖化の影響を受けるため、すぐには上昇を止めません。そのことも考慮に入れた上で、温暖化抑制を今後どのように進めるべきか検討する必要があります。氷床消滅のリスクがどの程度あるのか、また消滅を防ぐにはどの程度の温暖化抑制策が必要かといった問題に明確に答えを出すことが求められており、現在も研究が精力的に進められています。
以上のことをまとめますと、「温暖化すると陸上の氷河/氷床の縮小や海水の熱膨張によって海水面は上昇します。今後100年間の上昇幅は、現在の海岸堤防がそのまま維持されるとすれば、東京湾、伊勢湾、大阪湾の海抜ゼロメートル地帯が水没するほどではありません。しかし温暖化を放置した場合、数百年以上後にはグリーンランド氷床の縮小等により水没の危険が高まることが指摘されています。」となります。
今後数年〜数十年のうちに海抜ゼロメートル地帯が水没することはない見込みですが、数百年後まではまったく問題なしと安心してしまうことはできません。現在でも、台風が通過すると海岸付近は高潮により水浸しの危険にさらされることがあります。海抜ゼロメートル地帯の海岸堤防は過去の大型台風による高潮を想定して整備されていますが、温暖化で海水面が上昇した場合、従来なら防げたはずの高潮を防げなくなる恐れがあります。また、台風の強度が温暖化に伴い増加することも予想されています。その意味では海抜ゼロメートル地帯「水没」の危険は数百年以上先ですが、「高潮による水浸し」の危険はその前から徐々に高まって来ると考えられます。また、海岸堤防が十分に整備されていない地域は比較的小さな海面上昇に対しても脆弱であり、早い時期からの対策が必要となります(「ココが知りたい温暖化(温暖化と海面上昇1)」、ツバルの例を参照)。今後は海面水位の監視を継続的に行うと共に、将来の海面上昇に備えて海岸、河川の施設整備等を進めることが重要になると思われます。
(注1)南極の場合、温暖化に伴う降雪量の増加が融解量と氷河流出量の増加を上回り、しばらくは氷が増加する可能性もあります。
地球温暖化の原因、機構、影響等を、図とテキストを用いて解説しています。
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