


図1 南極ドームCで掘削された氷床コアを解析して得られた22,000年前から9,000年前にかけての、南極の気温の指標である氷を形成している水分子の水素同位体比(δD)、二酸化炭素濃度およびメタン濃度の変遷。(Monnin et al., Science, 291, 112-114, 2001)(American Association for the Advancement of Scienceより許可を得て転載)<http://www.sciencemag.org>
大気中の二酸化炭素濃度は人類が化石燃料を燃焼させること以外にも、自然のしくみ(陸上植物や海洋のはたらきなど)によって大きく変動しうるものです。例えば、過去数十万年の間に起こった氷期―間氷期(かんぴょうき)サイクルと同期するように二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度が大きく変化していたという証拠が、南極やグリーンランドの氷床を掘削した氷のサンプル(氷床コア)から得られています。例として図1に一番最近の氷期(最終氷期)から現在の間氷期に移行する間の南極の気温(の指標)と二酸化炭素濃度およびメタン濃度の詳細な変動を示します(注2)。この図を見ると、最終氷期からの気温と温室効果ガスの上昇はほぼ同時か、気温の方がやや早いということがわかります。この現象は、まず気温上昇などの気候変動で温室効果ガスの濃度が変化し、温室効果ガスの変化がさらに気温変動を増幅させたものであると説明されています。この気温の変化と温室効果ガスの変化について、以下でもう少し詳しく説明していきます。
およそ10万年の周期で起こった氷期―間氷期サイクルは北半球の高緯度地方に降り注ぐ日射量が変わったことが“きっかけ”になっています。これは地球の自転軸や公転軌道の周期的な変化に対応しており、ミランコヴィッチサイクルと呼ばれています。図1の最終氷期の終わりを例にとると、この日射量変化をきっかけとして、北アメリカやヨーロッパを覆っていた氷床面積の減少、海水面の上昇とそれに伴う大気中の塵の減少、さらには陸上植物の分布が変化したことなどが現在の間氷期への移行に寄与したとされていますが、最近の研究によれば、これらの変動に加えて二酸化炭素などの温室効果ガスの影響を考慮に入れないと、氷期―間氷期の気温差を半分程度しか説明できません。すなわち、過去に大気中の温室効果ガスの変動が地球の気候を実際に変えていたことがわかってきたのです。
次に、温室効果ガスの濃度が変化したメカニズムですが、そう簡単ではありませんし未だに「定説」があるとは言い切れません。ごく大まかには、氷期―間氷期サイクルにおける二酸化炭素の変動には、南極周辺の海洋が重要な役割を担っていたと考えられています。一方メタンは陸上の湿地が主たる放出源ですので、熱帯から北半球にかけての気温や降水量の変動に濃度が影響されます。図1では最終氷期から現在の間氷期にかけての気候変動が、IからIVの4つのステージに分けられています。二酸化炭素とメタンの変動がそれぞれのステージで違ったふるまいをしているのは、上記のような発生・吸収メカニズムの違いがあるからです。
実は上記のような気温上昇のタイミングや温室効果ガスの変動要因の解明は、今非常にホットな研究分野で、次々と新しい事実が明らかになっているところです。日本でも南極ドームふじ基地で掘削した氷床コアなど良質の試料が得られていますので、今後さらに知見が広がることでしょう。
氷床コア解析のような過去の知見の蓄積は、将来の気候変動を予測する上で非常に貴重な情報となります。さらに別な視点から言うと、図1の“急激”に見える二酸化炭素の増加が1000年で20ppm程度であるのに対して、現在では“たった10年”で同程度の濃度上昇が観測されているのですから、氷床コア解析のデータは我々人類が大気に対していかに大きなインパクトを与えているかを考えさせられる貴重な情報であるとも言えます。
(本回答の作成にあたり、国立極地研究所の川村賢二博士に有用な助言をいただきました。)
(注1) 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約
(日本語訳 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html)
(注2) 南極やグリーンランドの内陸に降り積もった雪は夏になっても溶けないので、その重みで圧密されて氷へと変わる際に隙間の空気を気泡として閉じこめます。氷床コアからこの気泡中の空気を汚染することなく取り出すと、現代にいながら過去の空気を調べることが可能になります。図1の二酸化炭素とメタンの濃度はこうして測ったものです。
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