ココが知りたい温暖化
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気温変化予測に幅があるのは?
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質問
最新のIPCC報告書では、100年後の気温上昇は1.1〜6.4℃と予測されています。これだけ幅があると、何も予測していないのと同じではないですか。逆に、複数のモデルが同じ結果を出したからといって、モデルが正しいともいえませんよね。
私が答えます:地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室 NIESポスドクフェロー  塩竈 秀夫
1.1〜6.4℃という幅は、「今後我々人類がどんな社会経済を築き、どのくらい二酸化炭素などを排出するかという想定(シナリオ)に幅があること」と「モデルの不確実性」の二つの要因によってもたらされています。シナリオの違いは、気温予測に大きな幅をもたらしています。一方、モデルの不確実性によって、同じシナリオでも予測はばらつきますが、予測の確率分布として有益な情報を引き出すことができます。この時、「複数のモデルが同じ結果を出したからその予測が正しい」と単純には判断せず、モデルの信頼性を考慮して不確実性の幅を求めています。これによって、それぞれのシナリオでの危険なレベルの気温上昇の発生確率を知ることができ、今後私たちがどんな社会経済を築いて行くべきかの判断に役立てることができます。

どのように予測しているか

人間活動による二酸化炭素などの排出に伴い、気候がどのように変わっていくかを調べるために、気候モデルを用いた温暖化予測研究が世界中で活発に行われています。ここでいう気候モデルとは、大気や海の動きを計算する複雑なものから、全世界平均の気温などを予測する単純なものまで、いろいろな複雑さのモデルを含みます。これらのモデルに、将来の二酸化炭素などの排出量に関する何らかの想定(シナリオ)を与えて、将来の気候変動は予測されます。世界中で行われているこの様な予測を総合して、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書(注1)では、1980〜1999年平均と比較した21世紀末(2090〜2099年平均)の気温上昇を1.1〜6.4℃と予測しています。

予測の幅の要因

この予測の大きな幅は主に次の二つの要因によって、もたらされています。

(1) 我々人類が今後どの様な社会経済を築いていくかによって、シナリオが大きく異なる。
(2) 気候変動に関係する物理プロセスの中で、現在の科学において理解が十分でない部分が存在するために生じる不確実性。例えば、気温が上昇した時に陸地や海洋がどの程度二酸化炭素を吸収または排出するか、雲がどのように変化するかなどに関して不確実な部分がある。

例えば「化石エネルギーを多く使って高度経済成長を推し進めていく社会」では2.4〜6.4℃(注2)(最もあり得る見積もりは4.0℃)、「経済、社会及び環境の持続可能性のための世界的な対策に重点が置かれる社会」では1.1〜2.9℃(注2)(1.8℃)の気温上昇が予測されています。これらの異なるシナリオにおける気温変化予測の上限と下限が前述した1.1〜6.4℃になります。このようにシナリオによって予測がばらつきますが、「これは我々がどのような社会を築いていくかによって将来の気温上昇が変わる」という選択肢の幅とも捉えることができます。

特定のシナリオにおいても、上記の様に気温上昇予測に幅があるのは、(2)のモデルの不確実性によるものです(注3)。これは同じシナリオでも、炭素循環や雲のふるまいなどに不確実な部分があるために、気候モデルが予測する気温上昇がばらつくことを示します。では、ばらつきのあるモデル予測結果からは、何も情報が得られないのでしょうか? 実は、ばらつきのある結果からも、気温上昇の確率分布という形で情報を得ることができます。確率分布を求めるもっとも単純な方法は、多くのモデルが予測している値の確率は高いと考え、モデルのばらつきの上限下限を不確実性の幅と考えることでしょう。しかし、IPCC報告書では、より複雑な方法をとっています。例えば過去の気候変動をよりよく再現できるモデルの予測を重視する工夫をしています(注4)。つまり多くのモデルが予測している値が正しいと単純には考えず、過去の観測との比較で予測の信頼性を担保しています。また、複雑なモデルによる予測は数十ほどしか有りませんが、単純なモデルで不確実なパラメータを動かして沢山の実験をすることで、気温上昇予測の不確実性幅を過小評価することがないようにしています。

確率的予測の有用性

図1
図1 「化石エネルギーを多く使って高度経済成長を推し進めていく社会」(a)と「経済、社会及び環境の持続可能性のための世界的な対策に重点が置かれる社会」(b)での1980〜1999年平均に対する2090〜2099年平均での気温上昇の確率分布を示す“ルーレット”。MIT Joint Program on the Science and Policy of Global Change (http://web.mit.edu/globalchange/www/)を参考にして作成。正規分布をもとに、50%値が前述の「もっともあり得る見積もり」になり、17%値と83%値の幅が「不確実性の幅」に一致するように変形させて確率分布を求めた。

では、気温上昇予測の確率分布が得られた場合は、どの様な有益な情報を引き出すことができるのでしょうか。例として、図1に「化石エネルギーを多く使って高度経済成長を推し進めていく社会」(a)と、「経済、社会及び環境の持続可能性のための世界的な対策に重点が置かれる社会」(b)での気温上昇予測の確率分布を円グラフにしたものを示します。この円グラフがルーレットの様に回っているところを想像してみてください。ルーレットが止まった枠が、本当の将来での気温変化です。しかし、モデルの不確実性のために、ルーレットがどの枠に止まるかは、現在の我々にはわかりません。それでも何もわからないわけではなくて、どの枠に止まりやすいかは、それぞれの枠の大きさを見ればわかります。また仮に、2℃以上の気温上昇で、ある穀物の生産量が急激に減少するとわかったとしましょう。図1bでは2℃以上になる確率は半分以下ですが、図1aでは2℃以上になる確率が非常に高いことがわかります。このように不確実性のあるモデル予測からも、それぞれのシナリオでの危険な気候変化の起きるリスクを見積もることができ、我々がどのような社会経済を築いていき、どのような温暖化対策を取るべきかという判断材料に用いることができます。

(注1) 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約
(日本語訳 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html)

(注2) 気温上昇がこの範囲に収まる確率が66%である不確実性幅。

(注3) 気候システムの自然の揺らぎによる不確実性もこの幅に含まれますが、主な不確実性の要因は(2)のモデルの不確実性です。

(注4) 観測された過去の気候変動には、温暖化の影響だけではなく、気候システムの自然の揺らぎや太陽・火山活動などによる影響も含まれるため、この点も留意してモデルと比較されています。また過去の気候変動との比較で、個々のモデルが温暖化を過大評価または過小評価するといった性質を調べて、予測を補正する手法も取られています。モデルによる気候変動予測の信頼性を評価する上で、どのような観測結果との比較が効果的か、また比較方法はどうすればよいか、などは非常に大事な問題だと認識されており、現在活発に研究が行われています。

さらに良く知りたい人のために
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約
(日本語訳 http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/index.html)
近藤洋輝 (2004) 地球温暖化予測がわかる本 スーパーコンピュータの挑戦 (特に8章「21世紀の気候変化予測」). 成山堂書店.
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