

太陽からは様々な種類の光(電磁波)が放射され地球にやってきますが、その種類は波長によって区別されています。人間の目には見えない、波長が400nm(ナノメートル、1nm = 10-9m、10億分の1メートル)より短い光のうち、100〜400nmの波長の光を紫外線と呼びます。通常、波長300nm以下の紫外線は地球の周りの大気によって散乱されたり吸収されたりして地表に到達しません。その吸収の主な原因は酸素分子とオゾン分子です。高さ25km付近にオゾン濃度のピークがあり、10〜50kmの成層圏にその約90%の量が存在します。この成層圏にあるオゾンをオゾン層と呼んでいます。
オゾン層破壊が進むと、これまでオゾンで吸収されて地表に到達しなかった波長300nm以下の紫外線が、地表まで到達できるようになります。また、弱いですがオゾンには500〜700nmの可視光線(緑色、黄色、橙色)を吸収する働きもあります。オゾン層破壊によって太陽光で地表がどれだけ暖められるかは、現在あるいは今後どの程度までオゾン層破壊が進むのかということと、そのオゾン層破壊の程度で地上に届くこれらの太陽光がどの程度増えるか、を考えればよいと思います。

オゾン層破壊によって、仮に高さ25km以下のオゾン層が全く消失してオゾン量が現在の約半分になったとしましょう。その場合でも、残り上半分のオゾンによってかなりの紫外線が吸収され、地表に到達する紫外線は300nm付近から5nm程度だけ短波長側と190〜230nm付近で増加するだけに止まります。そのエネルギー量は太陽からやってくるエネルギー全体に対して0.2%程度です。また、現在も含めて今後予想されるオゾン層破壊は地球全体の平均で最大5%程度ということを考慮すると(WMOオゾンアセスメントレポート2006)、オゾン層破壊によって増加する太陽エネルギーは、およその見積もりで、全太陽エネルギーに対して0.02%程度となり、値としては0.27Wm-2(1平方メートルあたり0.27ワット)以下となります。地表に到達する500〜700nmの太陽光エネルギーも増えますが、その増加は同程度かそれより小さいと考えられます。実際には、オゾン層破壊の大きい場所は太陽高度の低い高緯度地方に限られ、また1年のうちでも春季に限られます。季節や緯度経度を考慮した数値モデルを使ったより詳しい計算によると、その放射強制力(注1)は地球全体の一年平均で約0.11 Wm-2という値になります(図1)。ちなみに10月に南極上空でオゾンホールが発生した時は、そのオゾン量は50%減くらいになってしまうのですが、その期間はせいぜい1カ月と短く、この時期は太陽高度が極端に低いため、南極に到達する太陽エネルギーは地球全体が1年に受け取る太陽エネルギーに比べれば非常に小さく、その影響は小さいと言えるでしょう。
ところで、オゾン層には太陽紫外線を防ぐ働きの他にもう一つ、地表に向かって赤外線を放射する温室効果気体としての働きもあります。赤外線は800nm以上の波長の長い、目に見えない光で熱線とも呼ばれます。太陽光にも赤外線の一部は含まれますが、地表や、大気中の二酸化炭素、水蒸気、メタン、オゾンなどからも放射され、地球の温室効果は大気中のこれらの物質から放射される赤外線によって生じます。従って赤外線の影響に限って言えば、オゾン層破壊が起こってオゾン量が少なくなればその温室効果の影響は小さくなり、地表の気温を下げるように働きます。また、オゾン層破壊によって成層圏の気温が低下し、放射される赤外線が弱まって地表の気温を下げる効果もあります。しかしながら、こういったオゾン層の赤外線に対する温室効果も二酸化炭素に比べると小さいのであまり問題にはなりません。この計算は複雑なので省略しますが、詳しい計算によるとその放射強制力は−0.17Wm-2となります(図1)。前に述べた地表に到達する太陽放射増加による放射強制力+0.11 Wm-2をたし合わせた正味の放射強制力は−0.06 Wm-2となり、結果としてオゾン層破壊による放射強制力は二酸化炭素の放射強制力+1.66 Wm-2に比べてかなり小さく、地表気温に対してほとんど影響がないか、わずかに気温を下げる働きをします。
最近、高度10km以上の成層圏オゾンよりも地表付近の大気汚染などで増加する対流圏オゾンの温室効果が問題となっています。対流圏オゾンの増加による温室効果は成層圏オゾンに比べるとかなり大きいのですが、それでも二酸化炭素の温室効果に比べれば小さいと考えられています(図1)。
ここで、二酸化炭素などの温室効果気体の増加による温暖化がオゾン層破壊に影響を及ぼすかどうかについて少し付け加えておきます。「温暖化→オゾン層破壊」の影響は、少なからずあると言わざるを得ません。それは、オゾンの生成と破壊に関わる化学反応の速さが成層圏の気温の影響を敏感に受けるからです。温室効果気体が大気中に増えると地表と対流圏では気温が上昇して温暖化しますが成層圏大気は逆に冷却されて、南極や北極で極成層圏雲(注2)ができやすくなります。現在のように成層圏大気の塩素濃度が高い状況では、この極成層圏雲の増加によって塩素によるオゾン層破壊が加速されると考えられます。一方、温室効果気体の量は増えるがフロン・ハロン規制が効いた数十年後の大気では塩素・臭素濃度は下がり、塩素・臭素以外の他の化学成分との反応によってオゾン濃度が決まります。この化学反応は温度が下がるとオゾンを増やすように働きますので、成層圏大気の冷却によってオゾン濃度は増加すると考えられます。さらに、地球全体のオゾン分布と量は地球規模の大気の循環の影響を受けて変化するものなので、温暖化によってこの循環の強さが変わり、それに伴ってオゾン量が変化することも考えられます。

地球温暖化の要因は二酸化炭素であり、オゾン層破壊の要因はフロンガスです。現在までのところ、この2つの問題の直接的な要因は異なると言ってよいでしょう。しかしながらフロンガスはオゾン層を破壊すると同時に温室効果気体でもあるように、この2つの問題は全く無関係ではありません(図2)。図にあげた大気微量成分の今後の濃度の変化のしかたによっては、その関係の強弱が現在と異なってくることも考えられます。
(注1) 放射強制力:二酸化炭素などの温室効果気体の濃度や太陽放射強度などの変化による対流圏界面における放射強度の変化。放射強制力が正の場合には地表を加熱し、負の場合には冷却します。
(注2) 極成層圏雲:北極や南極の下部成層圏において、−78℃以下の極低温で生じる硫酸・硝酸・氷を成分とする雲。
地球温暖化の原因、機構、影響等を、図とテキストを用いて解説しています。
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